近年、至る所で機械学習や人工知能といった、IT技術に関するニュースを目にします。そうしたニュースを受け、サイエンス・フィクションのような世界が実現しつつあるのではないか、とイメージしている方も多いでしょう。
今回は、そんな機械学習と人工知能についてその概要と違いを説明したいと思います。
機械学習とは?
機械学習というのは、コンピュータに何らかの命令とデータを与えることで、その知能を向上していくという研究分野です。ちなみに知能にあたる部分はコンピュータによって異なり、画像認識だったりコンピュータチェスのように自ら考え選択するものだったりします。
この機械学習が何のための存在するかというと、大まかな理由は膨大な時間と手間を有する定型作業を人間に代わって行うためです。
例えばセキュリティソフトに備わっているスパムメール検知機能。受信するメールを一つひとつ確認し、それがスパムメールかどうかを判断するという作業は、人間にとっては大きな負担です。
様々な特徴を参考に、それに該当するような文章を探し出したり、ファイルがウイルスに感染しているか否かを判断しなければなりません。
一方の機械学習では、予め人間の手によってスパムメールの特徴(目の付けどころ)が命令されていて、さらに大量のデータが読み込まれ検知精度を増しています。このため人間では膨大な時間を使って行うような作業も、極めて短時間で完了するのです。
・教師あり学習と教師なし学習
機械学習の中にもいくつか分類があり、代表的なのが教師あり学習と教師なし学習です。
教師あり学習は人間によって予め答えを与えらえた状態で大量のデータを取り込みます。例えば先述したスパムメール検知機能なら、「これはスパムメールです」という答えと「○○に着目しなさい」という命令をデータに付与した上で、コンピュータに取り込ませます。これを繰り返すことで、コンピュータはスパムメールの特徴を次第に学習していき、検知制度を上げていくという仕組みです。
一方、教師なし学習とはデータに対して正解・不正解という答えを与えません。コンピュータは取り込んだデータの中から自ら規則性を探し、それに応じた行動を取るように人間が命令します。
例えば、インターネットショッピングのレコメンド機能が身近な実用例です。レコメンド機能では大量の購入データから「商品Aを購入した人は高確率で商品Bも購入する」といった規則性を見つけ出し、商品Aを購入した人に商品Bの購入をすすめます。このように、教師なし学習は主にマーケティング分野で活用される機械学習です。
ちなみに、これら2つの機械学習のどちらにも分類されないものとして、強化学習があります。これはコンピュータチェスなどに使用されるアルゴリズムで、無数の選択肢と報酬を与えることで、報酬へ達するための最良の選択を行うように知能を向上させるというものです。
人工知能とは?
人工知能と聞くと「鉄腕アトム」や「スターウォーズ」に登場するC3POなどのロボットをイメージする方が多いかと思います。このイメージは半分正解、半分不正解です。
計算機科学者のジョン・マッカーシーは、自身がまとめた人工知能に関するFAQの中で、人工知能を次のように定義しています。
It is the science and engineering of making intelligent machines, especially intelligent computer programs. It is related to the similar task of using computers to understand human intelligence, but AI does not have to confine itself to methods that are biologically observable.
知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術です。人の知能を理解するためにコンピュータを使うことと関係がありますが、自然界の生物が行っている知的手段だけに研究対象を限定することはありません。
引用:WHAT IS ARTIFICIAL INTELLIGENCE? Basic Questions(http://www-formal.stanford.edu/jmc/whatisai/node1.html)
翻訳:人工知能学会「人工知能のFAQ」(https://www.ai-gakkai.or.jp/whatsai/AIfaq.html)
この定義によれば、人工知能は人間のような知的生命体をコンピュータで真似るような研究分野ではあるものの、それはあくまで分野の一つであり、その他の様々な研究分野が存在するとしています。
従って、サイエンス・フィクションでよく見る人工知能というのは研究分野の一つであり、それが人工知能の全てというわけではありません。
ちなみに、Google傘下の人工知能研究会社が開発したAlpha GOというコンピューター囲碁が世界トップのプロ棋士に勝利したというニュースが世間に衝撃を与えました。しかしながら、サイエンス・フィクションの世界がノンフィクションになりつつある、とはまだ言えないでしょう。
Alpha GOに関しても知的生命体に似た人工知能というより、あくまでデータ分析により最良の手段を選択するための人工知能、という分野に属します。
機械学習と人工知能の違い
ここまでの解説を踏まえて機械学習と人工知能の違いをまとめると、機械学習は人工知能における研究分野の一つです。
先述したジョン・マッカーシーの定義では、人工知能は知的生命体のように知能を持つコンピュータを開発するだけでなく、その他高い計算技術を必要とする研究分野など、幅広く活用されているものとしています。むしろ、機械学習のような分野の方が発展が目覚ましく、人工知能が人間を凌駕するようなことはまだ遠い未来の話でしょう。
Alpha GOは囲碁という盤上のゲームにおいては確かに人間を量がしました。しかし、人間のように思考し、行動するわけではありません。Alpha GOによって得た技術に関しても、マーケティングや事象予測など、人間が行うには膨大な手間と時間がかかる作業を自動化する、といったところでしょう。
ただし、人工知能をビジネスに活用した際の効果は絶大です。例えば先述のレコメンド機能一つとっても、人間がマニュアルで行うことは無理な作業であり、かつ販促効果も十分に期待できます。
画像認識や音声認識といった技術に関しても同じです。これらの技術は機械学習無くしては成り立たず、こうした技術を利用したサービスや商品を展開している企業にとって、機械学習は間違いなくその中心に存在するものでしょう。
まとめ
皆さんの企業でも、機械学習を活用したいというニーズはないでしょうか?機械学習を活用することで、膨大な量のデータを分析し、売上予測や経営シミュレーションを行ったりと、様々なシーンで効果を期待できます。もしもそうしたニーズがあるという場合は、機械学習導入に際して大規模なデータ処理が可能なシステムの導入も検討しましょう。
機械学習は得てして大規模なデータが必要になり、その処理に時間がかかることが少なくありません。そうした処理時間を短縮することは、機械学習の精度を高めるために非常に重要になるでしょう。