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基幹システムクラウド化の課題と成功ポイント

ここ数年で、「クラウドファースト」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。クラウドファーストとは、社内システムの導入や刷新にあたり、クラウド基盤での導入を優先的に検討するというスタンスです。こうしたスタンスが浸透しているのも、クラウド基盤を採用したシステム環境が、多くの現状課題を解決し、高いメリットを持っているためです。

クラウド化の主なメリット

  • システム運用負荷が軽減し、将来のIT戦略へ注力できる
  • システム運用負荷軽減によって管理コストが削減される
  • 必要に応じて柔軟にリソースを拡張できる

こうしたクラウド化のメリットは、基幹システムといった大規模システム環境ほど高い効果を発揮する傾向にあります。

ITRが今年発表した、国内の統合基幹業務システム(ERP)パッケージ市場調査によれば、2020年にはクラウド利用企業数が、オンプレミス利用企業を追い抜くという予測が立てられています。
参考:ZDNet Japan「ERP市場、2020年にクラウドがオンプレミスを追い抜く:ITR調査

しかし、こうした市場拡大とは裏腹に、基幹システムのクラウド化に成功している企業ばかりではありません。移行するクラウドを選択し、本格的な移行を開始する前に、移行コストや手間によってプロジェクトを断念してしまう企業など、実は期間システムのクラウド化には難しい一面もあるのです。

そこで今回は、基幹システムクラウド化にある課題と、移行の成功ポイントについて紹介していきたいと思います。

基幹システムのクラウド化は、なぜ難しいのか?

基幹システムのクラウド化が難しい理由は多数あります。まず、最も多くの企業にとっての課題となり得るのが、基幹システム全体をクラウド化できない可能性が高いということです。そもそも基幹システムとは、企業が事業展開する上で、欠かせない重要な業務システムを指します。

会計システム、生産システム、営業システムなど実に多様です。これらの業務システムは、それぞれ保管するデータが異なるため、データの種類によって社内にとどめておかなければならない場合があります。たとえば顧客データの社外管理を禁止するようなセキュリティポリシーがあれば、営業システムのクラウド化は不可能です。

このように、クラウド化できない業務システムの見落としによって、最終的にクラウド化を断念してしまうケースが少なくありません。基幹システム全体をクラウド化してこそのメリットなので、いくつかのシステムのみ現状に留めてしまうと、システム連携的にも問題が発生する可能性があります。

もう一つ大きな課題が、クラウド基盤に対するセキュリティの不安です。近年、クラウドベンダーのセキュリティ体制が強化されたことで、以前よりもクラウド基盤に対するセキュリティ信頼性が増しています。それでもなお、セキュリティに不安が残るのも事実です。

実際に、次のようなクラウド基盤の事故が発生しています。

直近で起きたクラウド基盤事故

2015年11月23日、Google Compute Engineの欧州西第一リージョから一部のインターネットに対する接続時間が約70分間途切れるという障害が発生。原因は、通常自動操作を行うネットワーク操作を、エンジニアが手動で行ったこと。その操作の結果として、障害が発生した。
参考:Publickey「Google Compute Engine、いつもは自動で行うネットワーク操作を手動で行い、ミスに気付かず一部でネットワーク障害

2015年7月12日、KDDIが提供する個人向けau携帯電話で、一部Eメールが送信できないという事故が発生。長時間にわたって、全国159万台の携帯に影響が出た。原因は火災報知機の誤作動であり、これによって空調設備が停止し、室温が上昇したことでメールサーバが停止した。
参考:日経BP ITPro「au携帯電話のEメール、159万台で利用できない状況続く

このように、サイバー攻撃によるサービス停止というセキュリティ事故は少ないものの、ヒューマンエラーや誤作動、あるいは災害によるサービスの停止は定期的に発生しています。こうした万が一の事態を考慮し、データバックアップ先として別のクラウドサービスを利用すると、結果としてコスト増加になってしまうのです。

他にも様々な課題が残されている基幹システムのクラウド化。成功のポイントとは、何でしょうか?

基幹システムクラウド化、成功のポイントとは?

まず大切なのは、既存システム環境のアセスメント(現状評価)です。基幹システムをクラウド化するからには、できる限り広範囲にクラウド化する方が、企業にとっても効果が高くなります。

しかし、前述の通り、企業のシステム環境はすべてをクラウド化できる方が稀です。小規模なシステム環境であれば問題はないかもしれません。しかし規模が大きくなるほど、基幹システム全体のクラウド化が難しくなります。

そこでクラウド移行前のアセスメントが非常に重要です。社内のシステム環境やセキュリティポリシーを整理してみると、このデータを保有している基幹システムは、オンプレミスのままの方がいいなど、様々な要素が見えてきます。さらに、その基幹システムと連携しているものがあれば、連携性を保持するために現状維持が大切です。

このように、アセスメントをしなければ見えてこない、既存システム環境の問題というものがあります。基幹システムのすべてをクラウド化することを最終目的として、自社にとって最適な基幹システムクラウド化について熟考しなければなりません。

セキュリティの課題に対しては、高信頼のクラウド基盤を選ぶことである程度対応できます。基幹システムをクラウド化する場合、プロジェクトが大規模になりがちなので、移行先となるクラウド基盤のコストや性能ばかりに目が行きがちです。このため、各クラウド基盤のセキュリティ要件を十分に確認しないまま、移行に踏み切ってしまいます。

移行先のクラウド基盤が、万が一セキュリティ体制が不十分なクラウドベンダーであれば、重大なセキュリティ事故発生の危険性が高まります。実際に、2012年6月には、国内大手クラウドストレージ会社であるファーストサーバが障害を起こし、クラウドデータのバックアップデータも含めて、5,698件の企業データが消失するセキュリティ事故が起きています。
参考:日本経済新聞 Web刊「ファーストサーバ障害、深刻化する大規模「データ消失」
ヤフー子会社、クラウド時代の盲点を露呈(ネット事件簿)」

こうしたセキュリティ事故に関しては、クラウドベンダーのセキュリティ要件を隅から隅まで確認し、セキュリティ体制の強力なベンダーを選ぶことで避けられます。

まとめ

基幹システムのクラウド化は決して簡単ではありません。移行規模が大きくなるほど、手間と時間、さらにコストがかかり難しくなります。しかしその中でも、アセスメントを行い、移行計画を立て、クラウドベンダーのセキュリティ要件まで確認すれば、課題を解決しつつ基幹システムのクラウド化が実現します。

本記事の内容によって、少しでも多くの企業が基幹システムのクラウド化に成功すれば幸いです。

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